キャンプ料理を味わい深く〜北海道江別産のクラフトビール「ノースアイランドビール」は、こだわりピザ職人と農業法人とのコラボレーションを実現。知られざる奇跡の循環コラボ物語り
青空キャンプにはビールが一番! 今、クラフトビールが静かなブームになっています。小麦のまち・江別市で製造される「ノースアイランドビール」もそのひとつ。このビールブランドは地元のこだわりピザ職人とコラボし、味わい深いピザに一役買っています。そのピザ職人は少量多品種を生産する新進気鋭の農業法人とつながって、食の循環を実現。さらに、農業法人は道産ホップの栽培にもチャレンジして、将来的にはビールの原料を目指しているといいます。こんな奇跡のようなコラボレーション物語りを、江別市内で語っていただきました。
「ビールはアート」を信条に
多賀谷 わたしはカナダでの修業をベースに、2003年、仲間数人と札幌市東区で小規模なクラフトビール醸造を開始しました。カナダの恩師からは「Beer is Art」という教えをいただきました。ビールはアート。その言葉を忘れずに、今もこころに刻んでいます。その後、工場の拡張ということで新たな場所を探していました。ブランド小麦「ハルユタカ」の産地ということもあり、江別に工場を移転したのが2009年。今年2020年で11年目になります。
柏村 アンビシャスファームは江別で設立8年目になります。わたしは山口県出身。酪農学園大出身同士の新規就農者と既存農家の5代目がタッグを組んだのが始まりです。特徴は少量多品種の栽培。いろんな種類の野菜をつくっているのが強みです。社員は6人、パートさんやアルバイトさんも含めて総勢24人でやっています。畑の面積は36町歩と、このあたりでは平均的かと思います。
宮本 江別市内、JR野幌駅から徒歩約5分にあるレンガ工場跡を活用した「EBRI(エブリ)」という商業施設内でピザレストラン「EBEZZA(エベッツア)」を運営しています。2年前の2018年10月に店をオープンしました。江別製粉さんのピザ専用道産小麦と、地元の食材や野菜を使ったピザを提供しています。野菜は主にアンビシャスファームさんのものを使用。今の時期だと、バジルやセルバチカ、4種類のじゃがいもなどです。
前職は札幌でピザ職人として修行し、その前は、和食のふぐ調理師などもしていました。わたしは生まれも育ちも江別市です。札幌や東京で勉強して、ゆくゆくは地元に帰って江別を盛り上げることをしたいと考えていました。江別の魅力を小麦をベースに、ピザというものを通じて、生産者さんの魅力だったり、地元野菜のすばらしさを伝えていきたいと日々、行動しています。
多賀谷 当社では現在5種類の定番商品と、4種類ほどの季節限定商品があります。今日、グラスに注いだのは「ヴァイツェン」という江別産の小麦ハルユタカを使ったドイツスタイルのビールです。にがみを抑えてフルーティーな飲みやすさに仕上げています。「ブラウンエール」はイギリスなどを始めとする茶色いビール。コクがありつつ華やかな香りが楽しめます。「ピルスナー」はホップを多目に使用した王道のラガータイプ。パクチーの種であるスパイス・コリアンダーを使った「コリアンダーブラック」はフルーティーな香りをつけたコクのある黒ビールです。「インディアペールエール」はホップをふんだんに使った華やかな香りと苦味を楽しみながらクセになる味わいです。
柏村 どのタイプが一番人気ですか?
多賀谷 人気はヴァイツェンですかね。全国的に今、クラフトビール人気ということもあって、インディアペールエールやブラウンエールも良く出ています。価格は全種類同じで、616円(税込)で小売しています。江別市内の酒屋さんやフードDさんなどに置いてもらっています。全国どこからでも買えるオンラインショップもあります。ちなみに、札幌市内中心部には直営店「Beer Bar NORTH ISLAND」もあります。
多賀谷 江別に工場を新設する際、市役所の人や、地元商店街の方々などに、すごくお世話になり、あたたかく迎え入れてもらいました。実際つくったビールも「江別のビール」ということで愛着をもってくださっています。ありがたいかぎりです。将来はビールの主原料となる大麦も、ここ江別で栽培されたものを使っていきたいという夢もあります。ホップも含めて100%江別産の原料でビールが作れて、地元の人に飲んでいただければ最高です。
柏村 ホップはウチの農場で実験的につくっています。2年目になります。将来が楽しみです!
ビールとピザの深い関係
宮本 エブリに入っている当ピザレストランにもノースアイランドさんのビールを置いていまして、よく売れています。ある時には20本近くまとめておみやげに購入された人もいました。ウチではビールがめちゃめちゃ売れるんです(笑)。店では好きなビールとピザが食べられます。ピザの種類との相性、マリアージュでいうと、作り手からするとどうですかね?
多賀谷 燻製を効かせたピザにはヴァイツェンが合いますね。ピリ辛タイプにはピルスナーがいいです。ルッコラのほろ苦さと牛肉をつかったタイプには、ブラウンエールか、インディアペールエールでしょうか。どちらもいいと思います。相性を楽しみながら、エベッツアさんのピザとノースアイランドビールを味わってほしいですね。ビールとピザの相性は最高にいいんですよ(笑)。
宮本 そうなんです! 実はウチのピザ生地の中には、ノースアイランドビールさんのヴァイツェンの酵母が入っているんです。多賀谷さんのところから提供してもらっています。ビール酵母を入れると、まず、ピザの焼き色がよくなります。そして焼きあがった時、香りがいっそう香ばしくなるのです。味わいの余韻としても、ちょっとほろ苦いうまみとなって出てきます。ピザの本場イタリアではビール酵母を使うのがスタンダード。しかし、日本ではなかなか手に入らないので、使える店は少ない。ウチは近くにノースアイランドビールさんがあるということで、フレッシュな酵母を使えているのです。実にラッキーで、ありがたい限りです。奇跡のような出会いだと思っています。
柏村 ピザを焼いた窯から出るものを、ウチの農場でもらっています。
宮本 ピザは江別レンガで組んだ窯で焼いています。まきを使って焼くのですが、その灰を今度はアンビシャスファームさんに持ってきて、畑にまいて還元しています。江別の市内で循環できているのです。すごいことだと思っています。
柏村 そうそう。お互いに連携できて奇跡のような出会いですよね(笑)。ところで、わたしはヴァイツェンが好きなので、よく飲んでいます。限定ビールの「MONOHOP-Citra(モノホップ・シトラ)」を昨日、飲んだんですよ。あれ、おいしいですよね。飲みやすいし、コクがある。アルコール度数もちょっと高めで、しっかりとした飲み応えですかね。最近出た限定ビールなんですね。
宮本 わたしもそれ、好きです(笑)。ホップの香りがグレープフルーツっぽい感じもあって。そのホップをふんだんに使っている感じですね。ノースアイランドビールさんでは毎週土曜日に工場直売会を実施していて、当店ではキッチンカーを出しておじゃましています。新商品が出るたびに、それを目当てに来場するファンが多いという印象を受けます。
多賀谷 ありがとうございます。季節限定商品は、ひと仕込みだけで終了してしまうものも多いのです。一期一会なんです。ぜひ、味わって飲んでください。
柏村 宮本さんとの出会いは、いろんな生産者を訪ね歩いておられて、そんな活動を知り合いから聞いて紹介してもらったご縁ですね。
宮本 はい。アンビシャスファームさんの最初の印象は、「単なる農家ではなく、会社・企業として活動されている」印象でした。農業ビジネスを展開されている感じ。飲食業界にいて、生産者さんたちとつながりを持ちたいと思っていても、実は、なかなか簡単にはつながれないんです。受け入れてくれるところも少ないなか、柏村さんは歓迎してくれました。なのですごく感謝しています。
柏村 宮本さんの印象は、ピザ職人として世界大会にも出場される人だと聞いていました。すごい人かなと勝手に想像していたのですが、まったく普通の人でした。すぐに仲良くなれました(笑)。
宮本 野菜の味については、農家のみなさん努力されているので正直、全部美味しい。しかし、野菜という商品の裏側にある農業に対する想いとか、起業の物語りとかを聞いているとまたちがってくる。そこのストーリーを含めての味わいだと思っています。つくっている人の顔が見えているし、畑の環境も知っている。アンビシャスファームの品物は、安心感のある野菜たちなのです。
キャンプへ行く前に江別で食材仕入れを
柏村 実は、野幌のまちなかで直売所もやっているんです。生産者が店先に立つというコンセプトで、「ふたりのマルシェ」と名付けてやっています。テント立てて、土曜日の午前中だけですが野菜類を販売しています。土曜日の朝、これからキャンプへ行くという人が、マルシェに立ち寄って野菜を買って出発する人もいます。加えて、朝どりの野菜を「当日便」としてご自宅にお届けするサービス(江別市と札幌市のみ)もスタートしました。送料込みで2,000円です。その時々の旬の野菜と農家レシピをつけてお届けしています。
宮本 ウチではピザの「生地だけ」も販売しています。「キャンプでピザ焼くから」と買っていかれる人もいます。冷凍ピザも販売していて、店頭でもネットでも注文することができます。なので、柏村さんのふたりのマルシェで野菜を買って、ウチでピザを仕入れて、ノースアイランドさんのビール工場でお気に入りのビールを買って、空知方面や富良野方面のキャンプ場へ行く。そういうキャンパーが増えるとうれしいですね。
多賀谷 キャンプシーンでは、さわやかな青空の下だとヴァイツェンがよく合うと思います。黒ビールのコリアンダーブラックは、夜、たき火の前でじっくりという飲み方がいいですかね。ぜひ、われわれのコラボした商品のそれぞれを、すてきなキャンプ場で味わっていただきたいですね!
(本文敬称略)